広島で翻訳茶

広島で働く、英語・日本語の翻訳者/翻訳茶=緒方亮のブログ

村上春樹、エルサレム賞の受賞スピーチ、共同の要旨と、エルサレムポストの紹介記事(英文)など

前回書いたようにハアレツ紙(ヘブライ語紙)の編集長が審査委員長なのだけど、現地英語紙の方が早かった。ハアレツ紙英語版サイトにはまだ見あたりません。探し切れていないだけか、ヘブライ語紙の限界があるのか。

全文載せて欲しいな。選考した以上、その責任はあるのでわん。

エルサレムポストの記事はスピーチからの引用が大部分なので、実際の言葉に触れられます。訳出したいところですが時間がとれずすみません。共同の要旨を参考に読んでみてください。

作家の言葉でした。運動家の言葉とは違いますが、予想以上に気合いはいっていました。

追記

追記1
エルサレムポストの記事より、村上氏の発言部分のみ抜き出してありました。同氏の発言にのみ興味がある人は、こちらが見やすいかも。
壁と卵 - 池田信夫 blog

追記2
id:sho_ta氏が、上記英文抄録にAPから発言内容を補足して訳出されています。非常に参考になります。感謝ですね。ぜひ読んでみて下さい。
はてなダイアリー

id:sho_ta氏は「現時点での感想」として次のように書かれています。

「ユダヤ対アラブ」という構図を「システム対個人(壁対卵)」と読み替え、普遍性、汎用性を高めているあたりがうまい

なるほどですね。これは同時に村上氏の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドasin:4101001340から始まる同氏の物語世界への落とし込みでもあり(壁、システム、完結した世界)、現地読者は受け取るものが大きいと思いました。

id:sho_ta氏がAPから補足してくれている部分を読んで、僕は「壁」の導入の仕方に感心しました。

【僕は立ちすくんでいるよりも、ここに来ることを、目を反らすよりも見つめることを、沈黙よりも語ることを選びとりました。そのうえで、僕はひとつの、とても個人的なメッセージを届けるためにここに来ています。これは僕が「フィクション」をつづるさいにいつも心がけていることであり、紙切れに書きつけて壁に貼る、というわけではないけど、僕の心の「壁」には刻み込まれていることです。それは、】
 もしその「壁」が——その壁にぶつけられる「卵」が壊れてしまうほど——固く、高いものであるならば、どんなに「壁」が正しくとも、どれほど「卵」が間違えていたとしても、僕は卵のそばに立つでしょう。


壁は一般的な壁から村上氏自身の(人々の)内にある壁へ、そして「卵と壁」の壁へと展開されます。そして、このシステム(壁)を作ったのはわれわれなのだ、操られてはならないという主張がなされます。分離壁嘆きの壁の土地です。問題が先鋭化する暇を与えず相手に入っていき聴かせる(読ませる)技術はさすがです。今さら文章のうまさを語っても仕方がないのですが。ここを削ったエルサレムポストは減点3点かな。

エルサレム賞の公式ページによると、この賞は「社会における個人の自由」を示す著作の書き手に対して贈られてきたとあります。このスピーチ、そのまんまなのでは。選んだ側も大満足でしょう。

全文原稿

ハアレツ紙のページにきちんと署名入りで掲載されました。音声から起こしたものではなく、たぶん用意された原稿でしょうね。こちらで翻訳されています。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html

まだ読んでない。。この記事の追記はこれで終了!